次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「直人」

 名前を呼ばれて我に返り、隣に顔を向けると、心配そうな顔をしている彼女と目が合った。

「大丈夫? つまらなかった?」

「いや……」

 すっかり意識を飛ばしていたおかげで、少しだけ俺は慌てた。気づけば映画も終わり、テレビ画面にはエンドロールが流れている。

「ごめんね、疲れているのに」

 しょぼんと小さく項垂れる彼女が愛らしくて、そばにあった手を握る。すると、今度は彼女が驚いたような表情を見せた。

「疲れてない。晶子は楽しめたのか?」

 そう尋ねると彼女の顔は、ぱっと晴れやかになる。

「うん。主役の彼女ももちろん素敵だけど、そんな彼女を影ながら応援する親友役のカミューラの演技はすごくよかったと思う。あの、彼から告白を受けて、質問したときに涙するシーンは何度見ても見惚れちゃうよね。いい女優さんだな」

 映画の話をするときの彼女は、まるで人が変わったみたいに活き活きしていて、口数も多い。最初は驚いたりもしたが、そんな彼女の話を聞くのは嫌ではないし、なにより嬉しそうにしている彼女を見るのは幸せな気持ちになる。

 それにしても、俺はついつい口を挟んでしまった。

「晶子の泣き顔の方が綺麗だと思う」

 素直に告げた一言に、彼女は大きく目を見開いて固まっている。そしてすぐに、顔をぶんぶん振って狼狽え始めた。
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