次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 まさか、このタイミングで!?

 うんともすんとも言わないテレビを前に私はひとり自室で格闘していた。正確に言えば、テレビはついている。問題なのは、そのテレビに接続しているDVDデッキだ。

 わざわざマンションから持ってきたこのDVDデッキはかれこれ十年以上の付き合いになる。そのデッキに先ほどからDVDを入れて再生ボタンを押しても「ディスクを挿入してください」の文句が表示され、にっちもさっちもいかないのだ。

 ちなみにテレビも同じく十年選手で地デジ対応のものではなく、このデッキを通してデジタル放送を見るようにしているので、このデッキがなければ、このテレビはただの置物になってしまう。

 何度トライしてもディスクを読み込んでもらえない結果に私は肩を落とした。もういい加減、買い換えなくてはいけないのかもしれない。

 恨んではいけない、この子は十分な役割を果たしてくれた。むしろ今までありがとう、と労ってあげるべきだ。しかし、

 私は手元のDVDケースを見た。このマンションに引っ越すときに連想して、久々に観たい、と思っていた作品だ。ここは潔く諦めるべきか、否か。

 しばらく悩んで、私はそっと部屋を出る。今、この家には私以外、もう一人の住人はいない。玄関だけ明かりがついていて、私は暗い廊下を通ってリビングに向かう。

 何畳とカウントするのが、違和感を抱かせるほどリビングは広い。グレーのラグにスケルトンのローテーブル、黒のコーナーソファはモダンな雰囲気だが、それなりのお値段がするのは容易に想像できる。

 私がここに住みはじめて、一週間が過ぎていた。長いようであっという間のような不思議な感覚。まだまだ、ここの暮らしに慣れない。

 部屋も広く、綺麗過ぎて、なかなか落ち着かないし、さらに他人である異性と暮らすなんて今までにない経験で、緊張しっぱなしだ。精神的によろしくないと思うのだが、こればかりはしょうがない。
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