次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 そして肝心の私と彼の距離はというと、とくになにも進展はなかった。引越し初日が色々ありすぎただけで、今はお互いに淡々と生活している。

 自然体でいてくれた方が有難い、と言ったからか、彼からなにかアプローチされることもなかった。というより、彼が忙しすぎて、あまり家にいないのだ。

 帰国したばかりで、社長の代理を務めないといけないこともあってか、挨拶回りなどでここ一週間はずっと帰りが遅かった。

 私も必要なとき以外はほとんど自室から出ることもないので、丸一日顔さえ合わさないときもある。今日も恐らく帰りが遅いだろう。

 結婚前提の同居というより、完全なルームシェア状態だ。あんな条件を出しておいて、私からなにか歩み寄らなければ、と思いながらもどうすればいいのか分からないし、そもそも当の本人もなかなか家にいないのだからどうしようもない。

 リビングの電気を点けて、真ん中を陣取っている薄型の大きなテレビに近寄った。4Kというやつだろうか。そこらへんはあまり詳しくないが、テレビとDVDデッキが一体化していることに驚いた。

 最近のは色々と進んでいるんだなぁ。感心しつつ電源をつけて隣にあったリモコンに手を伸ばす。どんなに最新のものでも、リモコンの使い方は共通だ。

 彼には自室に入らなければ、あとは好きに使っていい、と言われたのでこのリビングのテレビを使ってもなにも問題はないと思うのだが、なんだか後ろめたい。

 それでも映画を観たい欲望には勝てず、DVDをセットして部屋の電気を消す。テレビの明りを頼りに、私はそーっとソファに腰掛けた。わざわざ電気を消すのは、映画館のような雰囲気を味わうためにわざとだ。
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