次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 そこで三島さんの言葉を待たずに、私は思い当たる映画のタイトルをぽろっと口にしてしまった。本当に無意識で、今までほとんど喋らなかった私がいきなり口を挟んだので、三島さんはもちろん、隣の彼も視線を向けてくる。

「すみません、私」

 はっと気づいたときにはもう遅い。余計なことは言わなくていい、と言われたのに。よりによって先方の大事な話の腰を折ってしまった。

 顔面蒼白になって身を縮めていると、三島さんは何度も瞬きをしながら、私をじっと見ていた。

「驚いた。ご存知なのかな?」

 尋ねられたのを無視するわけにもいかない。私はおずおずと口を開いた。

「はい。DVDも持ってます。実話を基にしただけあって、今から見ると時代を感じるところもありますけど、何回観てもすごく感動します。VHSにはすごくお世話になりましたから」

 素直に告げると、三島さんは笑顔になって大きく頷いた。

「あの主人公の熱苦しいけど、いつも前向きな姿勢に心打たれてね。あれを見て、やっぱり企業は人なんだと思ったよ」

「最後に直談判に行こうってシーンは胸が熱くなりまよね」

「そう。諦めるな、やり直せばいいじゃないかって台詞は本当に胸に響いて、お恥ずかしながら初めて観たときは男泣きしたさ」

 ついつい盛り上がってしまい、話が完全に脱線してしまった。それでも隣にいる彼にどんな話か分かるように気を遣って話したつもりなのだが。我々が話しているのはVHS開発プロジェクトの実話を基にした映画だった。
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