次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「それにしても驚いた。あなたのような若い女性が好んで観るようなものじゃないと思ったが」

 改めて言われて、私はなんだか恥ずかしくなった。

「私、映画が好きなんです、だから」

「だから、空いてる時間があれば、一緒に観たりするんです。その作品も彼女に勧められて観ました。経営者なら見ておけ、と言われたので」

 続けて答えたのは彼だった。わざとらしく私の肩に手を添えて笑顔を向けてくるが、私は驚いて笑えない。なんたって、私はそんな偉そうなことを言った覚えもないし、そもそも彼と一緒に映画だって観たこともない。

 しかし三島さんは、急に思いなおしたように、感心した表情になった。そんな三島さんに彼が向き直る。

「三島さん、すぐにとは言いません。ですが、俺も祖父も利益だけではなく、三島さんや三島さんのご家族、従業員の皆さんも同じように大事に考えて動きます。全力でサポートしますから、もしそのときは、どうかまた、考えていただけませんか>」

 そして、こちらが息を呑むぐらい、真剣な顔のまま頭を三島さんに向けて、きちっと下げた。その姿に今度は三島さんの方が慌てだすくらいだ。

 結局、仕事の話はまた改めて、という形になったが、最初よりも三島さんの態度は随分と軟化していた。私に対し、お勧めの映画の話をわざわざ振ってくれたりして、基本的にどれも知っている映画だったことが、三島さんの機嫌をさらによくさせる。

 それから、彼とも仕事以外の話で花を咲かせているのを見て、私は安堵しながらも、その場はお開きとなったのだった。
< 45 / 218 >

この作品をシェア

pagetop