次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「それもあるが、晶子がわざわざ俺にも分かるように、三島さんと会話してくれてたからな」

 その発言に私は目を丸くさせた。私の微妙な気遣いを彼はきちんと気づいてくれていたらしい。

「ありがとう」

 先ほどの笑顔とは違って、今度は本当に穏やかに笑う彼に、なんだか私は胸が締めつけられた。

「お礼を言われるようなこと、なにもしてないよ。私、食べてただけだし」

「でも、そもそも晶子があの映画を見てなかったら、ああいう話にはならなかったわけだし」

 私はぷいっと顔を背けてしまった。なんでこんな意地を張ってしまうのか。素直にどういたしまして、と言えばいいのに。胸の鼓動が意識せずとも速い。これも彼の演技なら、映画を見ているみたいに平然としていられるのに。

 そんなことを思っていると、頭の上に温もりを感じた。彼の手が頭に降りてきて撫でられる。こんな風にされるのなんていつぶりだろうか。まるで子どもみたいで恥ずかしい。

「それにしても、なにも嘘つかなくてもいいのに」

 それを誤魔化すかのように私は口を尖らせた。映画を観てる、なんて彼は言って。あの場はやり過ごせたかもしれないが、あれほど思い入れのある三島さんだから、また会ったときに映画の話になるかもしれないのに。

「本当にしてしまえば、それは嘘じゃない。一度観ておきたいから、貸してくれないか?」

 私は短く分かった、とだけ告げた。とにかく今日は疲れた、だから無理にはねのけることはない。きっと彼もそうなのだ。彼の手は、まだ私に触れたままだった。
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