次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 帰ってから私は、忘れないうちに、と思って例の映画のDVDを探した。引越しのときに整理したので、見つけるのに思ったより時間はかからなかった。

 それを持って彼の部屋の前に足を運ぶ。軽くノックするとドアががちゃりと開いた。

 ジャケットを脱いで、ネクタイも身につけておらず、ワイシャツにを着崩して部屋から出てきた。なんだか、いつもきっちりしている姿ばかりなので、少しだけ緊張してしまう。私は持ってきたものを彼に差し出した。

「これ。百分くらいあるから、時間のあるときにでも観て。返すのはいつでもいいから」

 早口で捲し立て、彼が受け取ったのを確認すると、急いで踵を返そうとした。

「晶子」

 しかし名前を呼ばれたので、再び彼の方に向き直る。

「明日はまた遅くなりそうだけど、明後日ならわりと早く帰ってこられる」

 そこで一息ついた彼に対し、私は意味がよく分からずに、頭の上にクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。

「うん?」

 すると、一瞬だけ彼が言いよどむ。そして、ややあってからその形のいい唇を動かした。
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