次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「だから、帰ってきたら一緒に観ないか」

「え!?」

 あまりにも予想外の言葉に私は声をあげてしまった。これは、どう受け取ったらいいんだろうか。今度は私が言葉に詰まっていると、彼がわざとらしく息を吐いた。

「三島さんにも言ったからな、空いてる時間があれば、一緒に観たりするって」

 ああそうか、と私は瞬時に理解した。そんなところまで律儀に守らなくても、と思ったが、彼が変に真面目なのは分かっていた。

 本当にすれば嘘じゃない、と言っていたが、元々あまり嘘をつくのが好きではないのだろうか。

「分かった。寝ないように見張っててあげるね」

 わざとらしくおどけて言ってみせたが、それに対して彼はなにも言わなかった。そして、今度こそ私は部屋に戻る。

 お目当てのものを探すついでに、散らかったDVDを再び整理する。誰かと一緒に映画を観るのなんてすごく久しぶりだし、一緒に観ようなんて誘われたのもいつぶりだか分からない。

 変に意識してしまったが、きっと彼の言うように言葉のまんまの意味で他意はないのだ。

 それにしても、ちらっとドアの隙間から見えた彼の部屋のデスクにはパソコンがついていて、傍らには束になった書類が置いてあった。

 私が想像するより彼はずっと忙しいようだ。なんだか余計なことを言ってしまったかな、と少しだけ胸が痛んだ。
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