次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 お見合いがあって、どっと疲れたにも関わらず、翌日はおかまいなしにやってくる。しかも、これが月曜日ときたものだから気分の重さは倍だ。

 さらに、深夜に再放送されていた懐かしい映画を見ていたから寝不足気味だった。

 欠伸を堪えつつ、私は書類の作成に励む。貿易事業をメインに手広く展開している会社で、私は事務として働いている。元々英語が好きで、英語を使う仕事がしたいと思い希望した会社だ。

 希望しただけあって、英語に触れない日はないが、日常会話よりも専門用語が多すぎて、入社してから覚えることの多さに今でも勉強の毎日だ。会社が大きい分、部署も細分化され、私は輸出業務部に所属している。

 会社が大きい分、サポートも手厚く、定期的にTOEICを受けることになっている。他にも貿易実務検定や通関士資格の資格を取るための勉強会などもあって仕事以外にも、仕事のために割く時間が多い。

 それでも私はこの仕事が好きだった。趣味の時間もなんとか確保できているし。

「三日月さん、今大丈夫?」

 作業途中で上司に声をかけられ、私は席を立った。

「はい、なんでしょうか?」

 白髪混じりでおでこの皺が目立つ戸田(とだ)部長はお子さんが三人いる家族思いのパパだ。高校生の娘さんには最近、鬱陶しがられていると酒の席で愚痴を溢していたが。

 デスクまで近づくと、内緒話でもするかのように声を潜められた。

「ここだけの話なんだが、ちょっと社長室に行ってくれないか?」

「えっ!? ですが、今社長は……」

 入院しているのは周知の事実だ。驚いたものの、つられて私の声も小さくなった。

「私も役員室の間違いかと思ったが、社長室であっているらしい。なんの用件かは聞いていないが、三日月晶子さんを呼んでくれ、とのことで」

 今は社長に代わって専務が色々と仕事をこなしているらしいが、そうなると呼ばれるのは専務の部屋、役員室だ。正直、呼びだされるような失敗も功績もなにもしてはいないはずだが。もしかして、

「妹さん絡みのことかもしれないな」

 私の考えを見越したように戸田部長に告げられ、思わず苦笑してしまった。
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