次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 翌日、言っていたように、彼はもうすぐ日付けが変わりそうだというのにまだ帰宅していない。私は映画を一本観た後、会社から支給される英語のテキストで勉強をしていた。今年もまた試験を受けなくては。

 腕を伸ばして、背もたれに思いっきり体を預けたそのとき、最小にしていたものの携帯電話が音を立てて鳴った。相手が誰だか確認するまでもない。

 緊急事態でもない限り、こんな時間に私に電話してくる人物なんて世界で一人だけだ。

『晶ちゃん、結婚するって本当!?』

 久しぶりだというのに、挨拶も近況もなく、いきなり相手は聞いてきた。

「久しぶり、朋子。今クールのドラマ、なかなか視聴率がいいみたいだね」

『ありがとう! 最終回は原作とは違う結末だから期待しててねってそうじゃなくて』

 私と同じ三日月今日子の孫であり、女優として活躍している妹の朋子だ。様々な作品に出演し、朝ドラでもヒロインの姉役を演じて、世間一般的な知名度は今や祖母を凌ぐ勢いだったりする。

 なかなか忙しい彼女がこうして電話を寄越してくるくらいだから、私の(正確には違うが)結婚話は相当な衝撃だったらしい。

『叔母さんからお母さん伝いに聞いたんだけど、あのおばあちゃんの言ってた人が相手なんでしょ?』

「そうそう」

 私は他人事のように軽く答えた。
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