次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 なにはともあれ、呼び出されたのならしょうがない。普段は足を踏み入れることのない社長室の前にたどり着くと、重厚なドアを強めにノックした。すると中から返事があったのでゆっくりと開ける。

「失礼します、三日月です」

「ああ」

 こちらを振り向いた人物に驚きが隠せない。私はドアのところで佇んだまま固まってしまった。そこには昨日、お見合いした相手が立っていたからだ。

「宝木、直人さん?」

 思い出して確認するように名前を告げると、彼は私の顔をじっと見て

「昨日はどうも。三日月晶子さん」

 と、抑揚のない声で返してきた。いくら孫だからといって、何故彼がここに? 事態が飲み込めないまま呆然としていると、彼は再び私を値踏みするかのごとく頭の先から爪先まで視線を動かす。

 昨日は同時に立つことがなかったから分からなかったが、意外と背が高く体つきもしっかりしている。動作のひとつひとつがなかなか様になっている。そうそう、俳優で例えるなら……。

「祖母が国民的女優の三日月今日子、妹は今、注目の若手実力派女優の三日月朋子(ともこ)。君も大変だな」

「あ、はい。お気遣いありがとうございます」

 まったく労るようなトーンではなかったが、ここは無難に返しておく。そんな言葉は今まで何度も投げ掛けられてきた。

 どうして私が彼とお見合いすることになったのか、それは自分たちの祖父母の頃まで遡る。
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