次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「こっちはそういうわけにはいかないんだ。孫は俺一人でじいさんは、あの約束を真剣に考えている」

 麻子叔母は忠光氏を会長、と呼んでいたがそれはこの会社を含め、宝木グループの総裁を務めているからであり、私にとってはこの会社の社長である。

 その社長が倒れたと聞いたときには、一社員として心配したが、まさかこんな展開になるとは。

 祖母が亡くなったのは学生の頃だったし、自分の会社の社長がおばあちゃんの昔の恋人だったなんて、世間の狭さを感じずにはいられない。そして、その社長の孫が彼だったというわけだ。

 ここになって、あの話を持ち出すということは、社長も倒れたことで先行きを不安に思ったのか、昔の恋人とのやり取りを懐かしく思ったのか。どちらにしたって、

「それは分かりますが、昨日も申し上げた通り、いくらお祖父様とうちの祖母との約束とはいえ、妹はその気がないもので」

 私は申し訳なさそうに告げた。二つ年下の妹、朋子は女優として忙しく活動しているし、このタイミングで結婚なんて考えられないだろう。

 それに二年前の映画で共演した年上の俳優と内緒で付き合っていると言ってたし。

「妹にその気がないなら君でかまわない」

「はぁ!?」

 考えを巡らせていると、予想していなかった言葉に私は目を剥いた。

「君も三日月今日子の孫だろう。条件は満たしているはずだ」

「そうかもしれませんけど、ご自分がなにを言ってるのか、理解されてます?」

「自分がなにを言っているのか理解できないほど馬鹿じゃない」

 そこで彼の目が真っ直ぐに私を捉えた。

「俺は君と結婚する」

 その言葉はどこか台詞がかってて、でも私の耳にはっきりと届いた。おかげで私は、なにも言えず、ただその一言を真正面から受け止めるしかできなかった。
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