次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「じいさんも、なんだって今になってあんな条件を出したんだか」

 条件? 結婚とは私とのことだろうか。なんの話かまったく分からない。だって、直人は社長の願いを叶えるために、わざわざ私と……。

「『三日月今日子の孫と結婚しなければ、会社の権利諸々は忠光様の弟である貞夫(さだお)さまにすべて委ねる』ということですからね」

「大叔父は俺を嫌っているし、孫がいるからな。じいさんは、よっぽど俺に跡を継がせたくないらしい」

 はじめて知る情報があり溢れて、私の頭は混乱していた。動悸が速くて胸が痛い。

「逆に言えば、結婚されれば直人さまに跡を託す、ということですし。しかしまさか、朋子さまではなく、晶子さまの方とは」

 少しだけ意外そうに言う栗林さんの声が胸に刺さる。直人は、直人はなんて答えるんだろうか。気づけば足が震えていた。すると、ドア越しに直人の声がはっきりと聞こえた。

「そうだな。でも、俺にとっては、じいさんの出した条件を満たすことが最優先だ」

 私は音を立てないように、その場から離れた。



 部屋のドアがノックされ、私は力なく突っ伏していたベッドから体を起こす。そっと扉を開けると、案の定、直人が顔を出した。

「いつ帰ったんだ? 今日は遅いんじゃなかったのか?」

 恐らく、栗林さんが帰るときに私の靴に気づいたのだろう。私は一瞬だけ躊躇った。
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