コミュ障なんです!


翌日、トレンドハウスの本社前で、私は息を吸い込む。

大丈夫。内容はほとんど詰めているし、斉藤さんとはメールでならそこそこ話している。
直に会ってもいける。いけると信じるのよ、香澄。

一歩踏み出そうとした瞬間に鳴った突然の着信音に驚いて、心臓が口から飛び出すかと思った。
脅かさないでよ、とスマホを見ると着信ではなくショートメッセージだった。


【落ち着いて臨めば大丈夫】


永屋さんからのメッセージだ。
こういう細かい気配りは、いったいどうやったら身につくのか、尊敬する。
スマホを心臓にあてて、深呼吸する。
こういう優しい気づかいは、素直に受け取ろう。


「……頑張ろう」


さっきまでひとりでの不安が大きかったけれど、急にひとりじゃないかも、なんて思えたもの。



受付で呼び出してもらうと、ニコニコ笑顔の斉藤さんがやってきた。


「やあ、和賀さん。どうぞこちらへ」


後ろに斉藤さんより若い男性もいる。でもなんか堂々としていて風格があるなぁ。
うちの渡辺部長が三十六歳のはずだから、同じくらいかも。

名刺交換をすると、【梶 雅也】と書かれていた。


「梶です。以前は海外バイヤーをしていて、本社に戻ってきたばかりなんですよ」

「海外ですか。すごい……。私、和賀といいます。今後ともよろしくお願いいたします」


とりあえず社交辞令。
さすが海外帰りというか、なんとなく身振りが大きい。
表情もはっきりしていて、何を考えてるかわかりやすそうだから苦手なタイプではない。

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