コミュ障なんです!
「あ、悪い。今日は……」
永屋さんは私のほうをちらりと見る。
さっき誘ってくれたから気にしてるんだろう。
大丈夫、まだ約束してないから先約にはなっていませんよ。
私は出来る限り口元を緩め、愛想笑いをする。
「永屋さん、私今日は疲れてるんでごめんなさい。仕事のほうはまたメールででも報告しますから、三浦さんのほう、付き合ってあげてください」
「え、でも」
焦る永屋さんに、驚く三浦さん。
尊敬するふたりから困ったような顔で見られるのはなんだか居心地が悪い。
早くこの場から逃げたい。
「ごめん。先約あったんだ?」
「違います。今断ろうと思っていたところだったんで。大丈夫ですよ。あ、田中さん!」
すまなさそうに私を見る三浦さんに笑ってみせたタイミングで、エレベーターから田中さんが出てきた。
特に用事もないけれど、逃げ出す口実にはちょうどいい。
「じゃあ私先に行きます」
ふたりの視線を背中に感じながら、田中さんのほうへと走り出す。
「おー和賀さんじゃん」
「こんにちは」
「珍しいね、和賀さんから話しかけてくるの。コーヒーでも飲まない? おごるよ」
田中さんの馴れ馴れしさが、こんなに役に立つことがあるとは人生はわからないものだ。
「いただきます」
答えて、田中さんの隣を歩き出す。
ちらり、と後ろを覗き見ると、永屋さんと三浦さんがこちらを見ながら話していた。
離れてみると余計、ふたりのお似合い感が際立つな。
身長差も十五センチほどとちょうどいいし、顔の造作も整っていてまぶしいくらい。
うん。私となんかより、三浦さんのほうがお似合い。
三浦さんがあんな風に頭下げるの、珍しいんだから、きっと重要な相談があるんだよ。
私なぞが邪魔していいはずがないじゃないですか。
そう思うのに。
ふたりから離れたかったはずなのに。
距離が開くほどになんでか胸が苦しくなる。
好きな人から逃げることでしか自分を守れないことが、無性に情けなかった。