コミュ障なんです!
「あ、そうなの?」
「だって、コミュ障ですし。家にいられるなら家にいたいです」
どうせ半分寝ぼけているんだろうし、言っちゃえ。
ほんとに付き合って、後から理想と違ったって言われるよりは、今言われたほうがダメージは少ないもの。
「仕事は好きですけど、人間関係が怖いんです。私、人を怒らせるの天才的に上手ですし」
「そうかな。……でも専業主婦こそコミュニケーション力いるよ? 家にいたら町内会の役員だの、セールスへの対応だの、結構大変。俺の母親、専業主婦だったけどさ、気遣いすぎて胃炎になったこともあるくらい」
「へっ」
そ、そうか。
専業主婦って勝手にのんびりしてお気楽って思いこんでいたけど、そんな落とし穴があるのか。
町内会とか予想もしていなかった伏線……。
「まあそれでも和賀さんがいいっていうならいいけど」
「……いいんですか?」
「うん。まあもったいないとは思うけど。和賀さんならおいしいご飯作ってくれそうだしね。なんで驚くの?」
「だって私。永屋さんは三浦さんみたいな人が好きなんだって思ってた」
「そんなこと言ったっけ」
「言いましたよ。自立してる女の人がいいって。ほら、美波ちゃんとか山海さんと一緒に飲んだとき」
「あー」
私を抱える腕はそのままに、体を動かす気配を背中に感じた。
「気づいてないんだ。あれって、和賀さんのことを言っていたつもりだったんだけど」
「は? 私?」
「自分の考えがあって、責任感もあるでしょ? 違う?」
「そんな、立派なもんじゃないです。迷ってばかりだし、いつも逃げ出したいって思ってるのに」
「そう? でも、逃げ出さなかったでしょ」
永屋さんの声は、甘くて優しいご褒美のチョコレートみたい。
夜だからかな。じんわり涙腺が緩んで、目じりに温かい液体が浮かんでくる。