コミュ障なんです!
「……あの、何か?」
「和賀さんももう終わるよね。おごるし、飯食ってかない?」
「いやでも、あれですよね。今の電話」
「俺の同期の山海(さんかい)ってやつ。今日飲んでるらしいんだけど、なんか人少なくて白けてるんだって。顔出すだけでいいから来てって。悪いけど和賀さんも付き合ってくれない?」
「えっ嫌ですよ!」
どうしてそんな面倒くさい席に私が行かなきゃいけないの。
だったら家で冷たいコンビニ弁当食べてる方がよっぽど気楽でよっぽど有意義!
「まあそういわないで。営業に顔見知り作っとくと後々得だよー」
「損とか得とかどうでもいいです!」
「なんかね、山海が目当ての子が幹事で、困ってるんだって。純情な男の恋愛を助けてやるのはやっぱり友人の役目かなって思うじゃん?」
あなたはね!
でも私、何の関係もないですから!
「いやいやいや、私はこれで」
「さ、行こうか。料理はうまいらしいよ」
人の話聞いてないし。
顔は笑顔のまま、手首を掴まれ、ずるずる引っ張られる。
「ん、消して」
私のデスク前で一瞬手を離される。言われるがままコンピュータの電源を落としながら、さすがにそろそろ気づいてきた。
笑顔だけど、この人怒ってる。
逃げようとする私に、めっちゃ怒ってる!
「おごりだし。一人素面だときついしさ。助けると思ってまあ来てよ」
再び手首を掴まれ、完全に捕獲された形の私。
まして相手が怒っていると思ってしまっては、もう逆らう気力がわこうか。いや、沸くわけがない。
諦めて彼の後をついていく。
私の足が動いたのに気付いたのか、永屋さんの笑顔のぎこちなさが消え、本当の笑顔になった。
……ああ、たった一日なのに、なんだかこの人の表情の変化がわかるようになってしまった。
コミュ障にとっては、ありがたいかな。
相手が怒っているかどうかがわかれば、まだ動きようがあるものね。