コミュ障なんです!
「だったら、もう少しここにいてもいいかな。始発で帰っても間に合うし」
それは迷惑だよ。泊めてあげただけ感謝してほしい。
これから出勤までの時間、どう過ごしたらいいか分からないじゃん。
批難の混じった視線を彼は敏感に感じ取ったらしい。
「うそうそ、ごめん」と笑うと立ち上がった。
素直にそう言われちゃうと調子が狂うというか。なんか私が追い出したみたいで居心地が悪い。
「あの」
「ん?」
「味噌汁くらいなら出せます」
言ってから軽く後悔した。
でも、永屋さんの顔が満面の笑みになったのを見てしまってからではもう撤回できない。
「悪いね、和賀さん」
本当ですよ。
と思ったけど、そこまでは言わないでおく。
「悪いついでにシャワーも借りてもいいかな」
あんまり早い時間だと近所迷惑なんですけどね、と思いつつ料理している間見ていられるのも落ち着かないし。
「いいですけど。着替えないでしょう」
「コンビニあるかな。ちょっと買ってくる」
言うが早いか駆け出して、ドアを閉める直前で彼が振り向いた。
「昨日、ありがとう」
「はい?」
「田中に言ってくれたろ。かなりスッキリした」
それはそれは本当に嬉しそうに言われて、私は驚きすぎて返事ができなかった。
その間に、永屋さんは軽やかな足取りで出ていく。
カンカンカン、金属製の階段を駆け下りる音は、私のドキドキ言う心臓の音に似ている。
「……記憶はあるのね?」
真っ赤になった自分を見られなくてよかった。
だって、面と向かってお礼言われるのとかも、コミュ障的にはどうしたらいいのかわからないんですもん。