コミュ障なんです!
「で、返事は?」
その言葉を聞いたとたん、私は体をびくつかせてしまった。
いまだ告白されたことさえ受け止めきれていないのに、返事なんて考えられるはずもないじゃん。
永屋さんはため息を一つ吐き出し、「……と言いたいところだけど」と続ける。
「俺、仕事に私情は挟まない主義なんだよね。朝からこんな話できないから、今度、暇な日を教えて。一緒に飯でも食べに行こうよ。和賀さんも仕事中は俺の言ったこと忘れて」
「はあ」
それは助かります。
ただでさえテンパっているんだよ仕事だってさぁ。
ここに来て、初めて尽くしのことが多すぎて、どうしたらいいんだかさっぱりだよ。
*
会社について、エレベーターのところで、上の階まで行く永屋さんとはお別れ。
先に下りてひとりになって、ホッとして大きなため息をついたところで、美波ちゃんから声をかけられた。
「あ、おはよう。香澄ちゃん」
「おはよう」
安堵感で倒れそう。
余程酷い顔をしていたのか、美波ちゃんは目を丸くする。
「どうしたの? 永屋さんとなんかあった? 見てたよー。朝から一緒に通勤してたの」
「え? や、あれは、駅で会っただけで」
「金曜の夜、あの後何もなかったの? あんなにガツガツ行く永屋さんも珍しいなぁって思ったんだけど」
「ガツガツ?」
「うん。あの後誘われたりしなかったの?」
「誘われ……いや、ない! ないよ!」
あれは永屋さんの具合が悪かったから。
だから私に甘えてきてただけでそれだけなんだから。
『俺、和賀さんのこと好きだよ』
でもあんなこと言われた。
好意があったのだとしたら、酔ってたのも演技だったのかな。
どこまでが本当なんだ?
永屋さんって人がどんどんわからなくなってくる。
「ねぇ、美波ちゃん」
「ん?」
笑顔で私をのぞき込んでくる美波ちゃん。
相談したい……けど、こんなこと他の人に言っていいのか分からない。
「……仕事しよっか」
「え? ああ、もう始業時間なるね」
「死ぬ気でやる」
混乱する頭を冷静にするのに、他にやり方が思い付かない。