好きを百万回。 〜Revenge at Boston〜
2
香ばしい匂いが鼻先をくすぐる。
ハッキリと目が覚めないオレは寝返りをうち、手を伸ばしたその先に愛しい温もりがないことに気付いた。
寝室から出てダイニングに行くとキッチンにエプロンをつけた後ろ姿が見える。
足音を忍ばせて背後から抱きすくめた。
「朔也さん?」
「起きたらこまりがいなかった」
「ごめんなさい、ホームベーカリーを買って貰ったのが嬉しくて早起きして作ってた」
朝というには太陽は既に高い位置にあり、春の終わりの休日の朝。
ハワイから戻ってきてずっとこまりが傍にいる幸せで温かな日々。
「朔也さん、焼きたてパンが食べられるよ。コーヒー入れるね」
腕の中からするりと抜け出そうとするこまりの腰を抱き、胸の中に収めた。
「朔也さん、まだ寝惚けてる?」
クスクス笑いながら真下からオレの顔をのぞき込むこまり。
この笑顔を守るためならきっとオレはどんなことでもする。
もう誰の悪意にも晒さない。