そのままで。

_________今から6年前_________

ガシャーーン!


「うっさい!邪魔すんな!おめぇは黙って俺のいう事聞いとりゃええねん。」


お皿の割れる音かな。

こんなことは私達にとって日常茶飯事だった。

これを世の中ではDVというらしい。

お父さんは怒るとすごく怖くて、

今思うと異常なひとだった。

お母さんは基本的に穏やかで、

温厚な人だった。

お母さんとお父さんだったら、

当然お母さんの方が弱い。

私が幼い頃から見てきたのは

『弱肉強食』だったのだろうか。

がたいの良い頑固なオスが、

気の弱い優しいメスにくらいつき、

これでもかと言う程喚き散らかす。

それを今日も聞いていた。

私達姉妹は別の部屋にいた。

ちょうど3時になった時、時計に気付いた幼い頃の私は、

「美琴お姉ちゃん、おやつの時間だよ?」

美琴おねえちゃんは困った顔をした。

「ねぇねぇ、今日のおやつは何?えびせん?チョコビ?じゃがりこ?」

「美月、ちょっと待ってね。」

「ねぇー、今日のおやつはなぁにぃ~??」

私は大きな声でふざけて言った。

「美月!静かにしときなさい。」

小声で掠れるこえで言われ、私は少し冷汗をかいた。

美琴お姉ちゃんは部屋を出ていき、自分の部屋へ向かった。

暫くするともどってきたが、手には何も持っていなかった。

するとズボンのポケットから小さなキャラメルを2つ取り出し、

私と美奈ちゃんに渡した。

「今日はこれで我慢だよ。お利口さんにね、」

「はぁい!」

こんなやり取りの中でも、お父さんの怒鳴る声が聞こえる。

時々、ものすごく大きな音が聞こえて驚いたが、

美奈お姉ちゃんとのおままごとが楽しくて、気は散らなかった。



お父さんの怒りが静まったのか、急にしずかになった。

“もう終わったのかな?”

そう思いながら部屋を出ようとすると、

廊下をドンドンと歩いていく音が聞こえた。

やがてその音は玄関の方向へ行き、家から出て行った。

リビングに行ってみると、お母さんが椅子に座って泣いていた。

「お母さん、大丈夫?これから美月たち、どうなんの?」

これは私の純粋な質問だった。

「さぁ、どうなんのかな。どうしようかな。」

お母さんは泣きじゃくりながら答えた。

私はその日、秀太の家に泊まることにした。
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