なごり雪
第二章 「最後の一葉」
彼は優しい人だから、何も話してはくれないけれど、もう薄々解っている。
私にはあまり時間は残されてはいないことを・・・。


あの庭の葉っぱがすべて落ちるまで私は生きてはいられない。なぁ~んてね。
感傷的になるのは私の柄に合わないわね。
ポジティブに受け止めたりはできないけれど、残りの時間を大切にして過ごしたいと思うの。


ふたりでよく散歩したあの公園、しばらく行けてないなぁ。
あともう一度だけ、あの燃えさかる様に美しい紅葉の映える水面を見たかった。
あの人は憶えているかしら?
ううん、彼ならいつまでも忘れないだろう。


私がいなくなったら、きっと寂しがるだろうなぁ。
そりゃあ私だって彼に忘れてほしいだなんて言いたくない。
いつまでもいつまでも私の存在を憶えておいてほしい。
あなたと私が一緒に過ごした大切な時を思い出してほしい。
でもね、たとえ私がいなくなったとしても、あなたにはあなたの人生が続いていくのよ。


時を凍らせたまま、そこで立ち尽くして動けなくなってもらいたくはない。
あなたなりの新しい生き方を見つけて、自分自身の足でその道を歩いて先へと進んでほしいの。
私の死が、あなたの重荷になる様なことだけはいやだわ。
私とともに生きてよかった。
そう感じてもらいたい。
たまにふと私のことを思い出してくれたらいいな。


そんなことばかり考えていたら、ふと素敵な考えが頭をよぎった。
あなたとの思い出と、あなたへの想いを込めて、私がいなくなった後もあなたへ伝わる様に、この携帯に気持ちを託すわ。


長く寒ざむしい冬が終わり、あたたかい春がくるころには、愛するあなたの悲しみがどうか癒えますように・・・。



< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop