彼の青色
遠距離恋愛というものを始めてもうじき二年になる。
私と彼は高校の同級生で、一学年に七クラスもある学校において、三年間も同じクラスだった。
このこと自体は、ものすごく珍しいというわけでもないのだろうけど、私と彼はたまたま苗字が同じで、出席番号も前後だったから、必然的に仲良くなったし、同じ苗字というだけで親近感も沸いていた。
だけど、卒業式の日の夜、なんとなくみんなで集まった夜の公園で、彼がぼそっと私を好きだと言わなかったら、『同じ苗字でお互い好ましくは思うけれど、それ以上でもそれ以下でもないクラスメイト』という関係のままさよならをして、会うのは年に一度の同窓会、なんてことになっていたのだろうと思う。
彼が、新幹線で二時間半という距離の場所に進学のために引っ越すことは決まっていたのだから。
最初から、分かっていたのだから。
彼がいつも私の隣にいてくれないことなど。
こんな雨の日は、高校三年間、いやというほど側にいた彼のことを思い出して、私の気持ちはどんどん暗くなってしまう。
彼の長い指(いつも温かい)や、四角い爪、触ると硬い直毛の髪(寝癖がなかなか直らない)、首筋のふたつのほくろ(行儀よく並んでいる)、ひんやりした耳たぶ(触るとくすくす笑う)、ごつごつした膝小僧(左にだけ傷跡がある)。
そういうものを思い出しては、触れられないもどかしさが私を包み、もう二年も経つというのに、息苦しささえ覚える。
大きな水溜りに、わざと足を入れた。
白いキャンパス生地のスニーカーに、みるみる水が染みていく。
――修行が足りない――
彼がいないのは分かっていたこと。
だから、私は強くなりたい。
彼がいない寂しさに、勝てる自分になりたい。
こんな雨の日にも、ちゃんとやるべきことができるくらいには、強くなりたいと思う。
私と彼は高校の同級生で、一学年に七クラスもある学校において、三年間も同じクラスだった。
このこと自体は、ものすごく珍しいというわけでもないのだろうけど、私と彼はたまたま苗字が同じで、出席番号も前後だったから、必然的に仲良くなったし、同じ苗字というだけで親近感も沸いていた。
だけど、卒業式の日の夜、なんとなくみんなで集まった夜の公園で、彼がぼそっと私を好きだと言わなかったら、『同じ苗字でお互い好ましくは思うけれど、それ以上でもそれ以下でもないクラスメイト』という関係のままさよならをして、会うのは年に一度の同窓会、なんてことになっていたのだろうと思う。
彼が、新幹線で二時間半という距離の場所に進学のために引っ越すことは決まっていたのだから。
最初から、分かっていたのだから。
彼がいつも私の隣にいてくれないことなど。
こんな雨の日は、高校三年間、いやというほど側にいた彼のことを思い出して、私の気持ちはどんどん暗くなってしまう。
彼の長い指(いつも温かい)や、四角い爪、触ると硬い直毛の髪(寝癖がなかなか直らない)、首筋のふたつのほくろ(行儀よく並んでいる)、ひんやりした耳たぶ(触るとくすくす笑う)、ごつごつした膝小僧(左にだけ傷跡がある)。
そういうものを思い出しては、触れられないもどかしさが私を包み、もう二年も経つというのに、息苦しささえ覚える。
大きな水溜りに、わざと足を入れた。
白いキャンパス生地のスニーカーに、みるみる水が染みていく。
――修行が足りない――
彼がいないのは分かっていたこと。
だから、私は強くなりたい。
彼がいない寂しさに、勝てる自分になりたい。
こんな雨の日にも、ちゃんとやるべきことができるくらいには、強くなりたいと思う。