彼の青色
彼はある有名なスポーツブランドの青い腕時計をしている。

高校三年のときに、アルバイトでためたお金で買ったと言うその腕時計は、高校生にしては高価なもので、彼はものすごくそれを気にいっている。

「高かったからとか、デザインがどうとかじゃないんだよ。自分で稼いだ金で買えたってことが嬉しかったんだよ」

いつだったか、彼はそう言った。
私と彼はその頃まだともだちで、ということはつまり彼がまだ私のすぐそばにいた頃のことだ。

私たちの学校のすぐ近くには、大きな商業施設があって、私と彼は卒業間近の冬の休日の朝、その前でばったりと出会った。

偶然だなとか、誰と待ち合わせしてんの?などどいう短いやりとりのあと、私は彼に聞いたのだ。
「ねぇ、今何時?」と。

時間を知りたいときには、いつもは携帯を見るのだけど、その時は携帯をバッグから取り出さすのが面倒だったのだ。
ちらりと自分の右手首を見て、時間を教えてくれた彼の仕草をみて、腕時計とは便利なものだと思った。

「なくても困らないのだろうけど、あると便利なもの第一位だね」

そう言った私に、彼は「ほかにもっとあるだろ」とあきれたように笑った。
白い息を吐きながら。

「この腕時計、すごく気に入ってるんだ。確かになくても時間を知る方法はいくらでもあるんだけどな」
でも、と彼は続けて、
「いや、俺にとってはなくては困るものかもしれないな」とも言った。

ここまで回想して、ふと私は考える。
彼にとって、私は。
なくては困るものなのだろうか。
それとも、なくても困らないけど、あると便利くらいの存在なのだろうか。

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