彼の青色
「俺もだよ」

彼はたっぷりと黙ったあと、小さな声で言った。
すごく長く感じたけれど、きっと三十秒くらいのものだったのだろう。

「だけどさ、得意なやつなんていないだろ」

「……たしかに」

私が言いたかったのはそういうことじゃないのだけど、私はひとまず彼の言葉に同意する。
深夜に結論をだそうとするのはよくないことだと知っているから。
彼がまた小さなあくびをする。
彼は今とっても眠くて、思考回路が止まっている。
だって、大学とかバイトとか新しくできた友だちとか、遠い街での生活とか一人暮らしとか、そういうことで毎日とっても充実してて、忙しくて。

だから、今日のところは、もう電話を切ってしまおう。

これ以上、彼を困らせるような言葉を言ってしまう前に。
さみしいとか会いたいとかそういう言葉。

「おやすみなさい」

眠そうな彼の「おやすみ」の言葉はいつもさみしい。

本当はずっと前から気づいている。
さみしいのは、距離が離れているからじゃない。
さみしいのが、私だけかもしれないと思うことが、きっとさみしいんだ。




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