透き通る季節の中で
「ねえ、お姉ちゃん。何の絵を描いてるの?」
「お空の絵だよ」
「ふーん。あたしも描いてみようかな」
 千春が私のスケッチブックに落書きしてきた。
「あ、ちょっと! 勝手に太陽を描かないでよ!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃん」
「ごめんごめん。別に怒ったわけじゃないのよ。千春も自分の色鉛筆とスケッチブックを持ってるでしょ? 自分の物を使って描いてね」
 千春に言い聞かせていたとき、お母さんが部屋に入ってきた。
「お姉ちゃんは、絵を描いているんだから、邪魔しちゃダメよ」
「はーい」
 お母さんに注意された千春は、自分のスケッチブックに絵を描き始めた。

 部屋が静かになったので、絵を描くことに集中できる。

 私は千春に落書きされた紙を切り離して、新しい紙に空の絵を描き始めた。


「ねえ、咲樹。絵を描くのはいいんだけど、たまには外で遊ばないとね。それか、また何か習い事を始めてみたらどうかしら」
 お母さんが静かに絵を描き進めている私に言ってきた。
「うん。わかった」
 このままずっと部屋にこもって絵を描き続けていたら、お母さんを心配させてしまう。と思い、小学校のミニバスケットクラブに入ってみることにした。
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