透き通る季節の中で
 練習を終えた後、一年生部員のみんなで中庭に集まった。
 山下くんも、電車通学だという。


「この五人で駅まで競争しない?」
 友紀がいきなり言い出した。

 初練習を終えたばかりの山下くんは、困惑したような表情を浮かべている。

「いいよ」
「いいわよ」
 美咲と松田さんは走る気まんまんといった様子。

 私は返事をしなかった。

「ただ競争するだけじゃ、つまらないからさ、負けた人が勝った人にショートケーキをおごるっていうのはどう?」
 友紀はとにかくショートケーキを賭けて走るのが好き。

「いいよ」
「いいわよ」
 美咲と松田さんは笑顔で返事をした。

「咲樹と山下くんは参加しないの?」
 友紀が私と山下くんに尋ねてきた。

「私は勝てそうもないから、遠慮しておくね」
「僕は足が痛いので、遠慮しておきます」
「じゃあ、あたしと友紀とまっちゃんとの三人で勝負だね。よーい! スタート!」
 美咲が勢いよく走り出した。

「美咲! 今のはフライングよ! フライング!」
 友紀は慌てた様子で美咲の後を追いかけている。

「じゃあ、佐藤さんと山下くん。先に行くわね」
 松田さんも勢いよく走り出した。

 三人の後ろ姿がどんどん小さくなっていく。


 うおおおおおおおおお! 美咲とまっちゃんに負けてたまるものか!

 友紀の叫び声が聞こえてくる。


 美咲を抜くことができず、松田さんに抜かれたのかもしれない。

 私の予想では、友紀が美咲にショートケーキをおごることになると思う。
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