透き通る季節の中で
 二周目にして、山下くんは早くも周回遅れになってしまった。
 それでも、歩き続けている。
 ゆっくりだけど、前を向いて歩き続けている。

「山下くん、ファイト!」
 橘先輩が山下くんに声を掛けた。

「声を掛けてくださって、ありがとうございます」
 山下くんは明るい声で応えた。

「山下、頑張れ!」
 男子先輩部員も山下くんに声を掛けた。

「応援してくださって、ありがとうございます」
 山下くんは明るい声で応えた。


「一緒に歩いてあげたら?」
 五周目に差し掛かったとき、美咲が私に言ってきた。

 私は走りながら考えた。
 
「じゃあ、山下くんと一緒に歩くね」
「うん」
 美咲はにこっと微笑み、走る速度を上げて、友紀の前に出た。

 友紀も走る速度を上げて、美咲の前に出た。

 松田さんも走る速度を上げている。
 
 美咲は後ろに振り返り、微笑みながら、私に向かってVサインをした。


 私は外周を逆に回り、走って山下くんの元に向かった。


 山下くんは足を引きずりながら歩き続けている。
 表情は明るいまま。


「一緒に歩きましょうか」
「あ、はい。どうもありがとうございます」
 山下くんは照れくさそうにしながら、私に向かってお辞儀をした。

 よし、頑張ろう。と声を上げて、前を向いて歩き始めた。

 山下くんと私は、肩を並べて歩き続けた。
 
 部員のみんなに追い抜かれても、恥ずかしくなんかない。
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