透き通る季節の中で
 この日も一年生部員のみんなで中庭に集まった。
 
 友紀と松田さんは、走る気まんまんといった様子で、ブレザーを脱いで走る準備を進めている。
 美咲は、なんだか嬉しそうな顔をしていて、私にチラチラ視線を送っている。


「よし、走る準備完了よ。咲樹と山下くんは参加しないの?」
 友紀が私と山下くんに尋ねてきた。
「参加しないわよ」
「僕も遠慮しておきます」
「二人とも根性なしだね。そんなんじゃ、いつまで経っても私に勝てないわよ」
 友紀が強い口調で言ってきた。挑発されても、私は参加しない。

「あの二人はほっといていいのよ。それじゃあ、いくわよ。よーい! スタート!」
 美咲が勢いよく走り出した。
「美咲! またフライングよ! フライング!」
 友紀は慌てた様子で美咲の後を追いかけていった。
「こら! 二人とも待ちなさい!」
 松田さんも勢いよく走り出した。


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 美咲とまっちゃんに負けてたまるものか! 

 今日も友紀の叫び声が聞こえてくる。


 私の予想では、また美咲が一位。松田さんが二位。友紀が三位。

 今日も友紀が美咲にショートケーキをおごるはめになると思う。


「あの三人は、本当にすごいですね。僕も参加できるようになりたいです」
「頑張って走り続ければ、いつか参加できるようになると思いますよ」
「そうですね」

 この日も山下くんと話しながら駅に向かった。

 七時を過ぎているので、生徒の姿は少ない。通りを歩いている人もまばら。人目を気にせずに話せる。
 
 山下くんは、昨日より口数が多く、私にいろんなことを話してくれた。

 幼少時代のこと。
 小学生時代のこと。
 中学生時代のこと。
 家族のこと。
 飼い犬のこと。
 好きな食べ物。
 好きな飲み物。
 好きなスポーツ。
 趣味について。

 山下くんは趣味で詩を書いているという。

 明日、その詩の書かれたノートを持ってきてくれるという。



「どうもお疲れ様でした」
 改札をくぐったところで、お互いに頭を下げあった。
 
 別れ際、携帯番号とメアドを交換した。



 車窓から外を見つめていたとき、私の携帯電話が鳴った。

 山下くんからのメールだった。



 今日は、本当にありがとうございました。
 佐藤さんのおかげで、頑張ろうという気持ちになれます。
 頑張って走って、一日でも早く、部員のみなさんと一緒に走れるようになりたいと思います。
 また明日からもよろしくお願いします。



 流れゆく車窓からの景色を見つめながら、どう返事をしようか考えた。



 こちらこそ、本当にありがとうございました。
 いろんなお話が聞けて、とても楽しかったです。
 また明日からも一緒に走りましょう。
 山下くんの詩、楽しみにしています。
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