透き通る季節の中で
 千春は今日も彼氏を家に連れてきた。
 今日で三日連続。

 私が部屋にいるのに、二段ベッドの上でいちゃいちゃしている。
 二人とも、馬鹿笑いをしている。

 本当にどういう神経をしているのか。


「ねえ、お姉ちゃん。達也と二人だけで過ごしたいから、部屋から出てくれないかな」
 二段ベッドの上から、千春が私に言ってきた。

「この部屋は、私の部屋でもあるんだよ」
「それはわかってるよ。お願いだから、部屋から出てくれないかな」
 千春が強い口調で言ってきた。

「お姉ちゃんってば、早く部屋から出てよ」
 千春がまた強い口調で言ってきた。

 もう我慢の限界だけど、達也くんが見ているので、私は何も言わずに部屋から出て、扉を閉めた。


 ドアの前で佇んでいたところ、部屋から変な声が聞こえてきた。
 ギシギシとベッドが鳴っている。

 何をしているのか確かめるため、私はこっそりドアを開けた。

 千春と達也くんは……裸で抱き合っている。
 キスをしながら抱き合っている。
 千春が上下に腰を振っている。

「ねえ、気持ちいい?」
「すっごく気持ちいいよ」
「もっと激しく動かしたほうがいい?」
「うん。もっと激しく動かして」
「中に出しちゃダメだよ」
「中に出したいな」
「もう、達也ったら」

 信じられない光景に、私は自分の目と耳を疑った。

 二人とも、まだ中二なのに……。
 リビングにお父さんとお母さんがいるのに……。
 部屋で性行為をするなんて……。
 妊娠したら、どうするのか……。

 お父さんとお母さんに注意してもらうか、自分で注意するか考えた。

 バカな妹でも、千春は血の繋がった妹。

「今すぐやめなさい!」
 私は大声で怒鳴りつけた。

 千春を怒鳴りつけたのは、これが初めて。

 千春と達也くんは、慌てた様子で服を着ている。


 私の怒鳴り声が聞こえたのか、お母さんが部屋に駆けつけてきた。

「何かあったの?」
 お母さんが私に尋ねてきた。

「何でもないよ」
 私は冷静に答えた。

「そう、それならいいんだけど」
 お母さんはリビングに戻っていった。

「どうもすみませんでした」
 達也くんが私に謝ってきた。

「僕は帰ります」
 達也くんは部屋から出ていった。

 私は千春に説教した。





 あの日以来、千春は彼氏を家に連れてこなくなった。

「達也くんはどうしたの?」
 千春に聞いてみた。
「とっくに別れたよ」
「どうして別れたの?」
「エッチが下手なんだもん」

 そんな理由で別れるなんて……。

 好きだから付き合っていたのではないのだろうか。
 千春は何を考えているのだろう。

 姉として心配になる。
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