透き通る季節の中で
 部屋で中間テストの勉強をしていたとき、千春がまた部屋に男を連れてきた。
 
 名前は、近藤仁志くん。千春の同級生で、新しい彼氏だという。
 髪は黒髪で短髪。制服姿でスポーツバッグを持っている。
 運動が得意で、サッカー部に入っているらしい。
 千春の元彼の達也くんより愛想がよく、私のことを、咲樹お姉さん。咲樹お姉さん。と馴れ馴れしく呼んでくる。
 

 機嫌が良いのか、この日の千春は、私に部屋から出て行け。とは言わず、気持ち悪いほど愛想を振りまいている。

「両親に紹介するから、リビングに行こうか」

「うん」
 千春と仁志くんは部屋から出ていった。

 私はホッと胸を撫で下ろし、黙々とテスト勉強を続けた。



 リビングから笑い声が聞こえてくる。
 千春の笑い声。
 仁志くんの笑い声。
 お父さんとお母さんの笑い声も。

 四人の笑い声がどんどん大きくなっていく。

 私はヘッドホンで音楽を聴きながら、テスト勉強を続けた。



 仁志くんは帰ったのだろうか。千春が一人で部屋に入ってきた。
 勉強している私の横で何かを言っている。

 私は音楽を止めて、ヘッドホンを頭から外した。

「お姉ちゃんは、彼氏とやったの?」
 千春がニヤついた顔で聞いてきた。

「やるって何を?」

「エッチに決まってるじゃん。しらばっくれないでよ」

「そんなこと、しないわよ」

「どうしてしないの? 愛してるんでしょ?」
 
 もう馬鹿馬鹿しくて、相手にできない。
 亮太はそんな男じゃない。と言ってやりたかったけど、ぐっと堪えた。

「つまーんないの。仁志にメールしよっと」

 私はヘッドホンで耳を塞ぎ、テスト勉強を続けた。
 亮太の写真を見つめながら。
< 119 / 268 >

この作品をシェア

pagetop