透き通る季節の中で
第8章 新たな道に進むために
期末テスト明けの日曜日の夜、久しぶりに千春が家に彼氏を連れてきた。
千春なりに気を遣っているのだろうか、私のいる部屋には入ってこず、リビングで過ごしている様子。
お父さんとお母さんもリビングで過ごしているようで、四人の笑い声が聞こえてくる。
何を話しているのかはわからない。私の耳には、笑い声だけが聞こえてくる。
彼氏を亡くして日の浅い私からしてみれば、ものすごく耳障りな笑い声。
耳障りに感じるのは、私の心が狭いからなのか、ごく当たり前なことなのか。
千春の彼氏の馬鹿笑いを聞いていると、そんなことを真剣に考えている、自分が哀れに思えてくる。
この日から、千春はほとんど毎日のように、家に彼氏を連れてくるようになった。
私は自分の部屋にこもり、ヘッドホンで耳を塞ぐ毎日。
ヒップホップ、クラブミュージック、ダンスミュージック、レゲエにR&B。
ノリの良い明るい曲を聴いたところで、疎外感は癒されない。
この家は、私の家なのに、まるで他人の家で暮らしているような感覚。
誰が家族で、誰が他人なのか、わからなくなってくる。
ヘッドホンを耳に当てたまま、もっとノリの良い明るい曲を聴こうと、CDラックをあさっていたところ、お母さんが部屋に入ってきた。
身振り手振りで何かを伝えようとしている。
私は仕方なく、ヘッドホンを耳から外した。
その瞬間、千春の彼氏の馬鹿笑いが聞こえてきた。
千春とお父さんの笑い声も聞こえてくる。
本当に耳が痛い。心が強く締め付けられる。
用事があるなら早く言って。私は心の中で強くつぶやいた。
「咲樹もたまには一緒にどう?」
私を気遣ってのことなのか、それはわからない。
お母さんの顔を見つめながら、どうしようか考えた。
これ以上、家族関係が悪化したら、家に居づらくなってしまう。と思い、お母さんの後に続いて、私もリビングに入った。
テーブルの上に、お菓子がいっぱい並べられている。
ジュースもたくさん置かれている。
千春と千春の彼氏は、寄り添うようにソファーに座っている。
お父さんが美味しそうにビールを飲んでいる。
「咲樹お姉さん、こんばんは。どうもお邪魔しています」
千春の彼氏が私に向かって頭を下げた。
あんたにお姉さんなんて呼ばれる筋合いはないよ。私は心の中で強くつぶやいた。
「仁志くんは、本当に礼儀正しいわね」
とお母さん。
「サッカー選手として、当たり前なことです」
と千春の彼氏。
サッカー選手じゃなくても、当たり前なことでしょ。私は心の中で強くつぶやいた。
「今度の試合は勝てそうか」
お父さんが千春の彼氏に尋ねた。
「僕が活躍すれば、勝てると思います」
千春の彼氏は大きな声で答えた。
サッカーは、一人でやるものじゃないでしょ。何を偉そうに。私は心の中で強くつぶやいた。
「仁志くんもビールを飲まないか?」
お父さんが千春の彼氏に勧めた。
「僕はまだ中学生ですよ」
千春の彼氏は笑いながら断った。
「冗談に決まってるだろ」
お父さんが笑いながら言った。
「冗談でしたか。お父さんは、冗談がお上手ですね」
千春の彼氏がへらへら笑っている。
お父さんもお母さんも千春もへらへら笑っている。
四人の気色悪い笑い声がリビングに響き渡る。
とてもじゃないけど、この雰囲気には馴染めない。
本当に苦痛で苦痛で仕方がない。
この耐え難い苦痛はいつまで続くのか。
いつまで我慢しなければならないのか。
このとき、私は家を出る決意をした。
高校を卒業したら、家を出る。
ワンルームマンションで一人暮らしをするか、寮のある大学に入る。
どちらにしても、お金が必要。
両親には、なるべく頼りたくない。
アルバイトをして、お金を貯めなければならない。
部活とアルバイト。どちらを取るか、すぐには決断できない。
千春なりに気を遣っているのだろうか、私のいる部屋には入ってこず、リビングで過ごしている様子。
お父さんとお母さんもリビングで過ごしているようで、四人の笑い声が聞こえてくる。
何を話しているのかはわからない。私の耳には、笑い声だけが聞こえてくる。
彼氏を亡くして日の浅い私からしてみれば、ものすごく耳障りな笑い声。
耳障りに感じるのは、私の心が狭いからなのか、ごく当たり前なことなのか。
千春の彼氏の馬鹿笑いを聞いていると、そんなことを真剣に考えている、自分が哀れに思えてくる。
この日から、千春はほとんど毎日のように、家に彼氏を連れてくるようになった。
私は自分の部屋にこもり、ヘッドホンで耳を塞ぐ毎日。
ヒップホップ、クラブミュージック、ダンスミュージック、レゲエにR&B。
ノリの良い明るい曲を聴いたところで、疎外感は癒されない。
この家は、私の家なのに、まるで他人の家で暮らしているような感覚。
誰が家族で、誰が他人なのか、わからなくなってくる。
ヘッドホンを耳に当てたまま、もっとノリの良い明るい曲を聴こうと、CDラックをあさっていたところ、お母さんが部屋に入ってきた。
身振り手振りで何かを伝えようとしている。
私は仕方なく、ヘッドホンを耳から外した。
その瞬間、千春の彼氏の馬鹿笑いが聞こえてきた。
千春とお父さんの笑い声も聞こえてくる。
本当に耳が痛い。心が強く締め付けられる。
用事があるなら早く言って。私は心の中で強くつぶやいた。
「咲樹もたまには一緒にどう?」
私を気遣ってのことなのか、それはわからない。
お母さんの顔を見つめながら、どうしようか考えた。
これ以上、家族関係が悪化したら、家に居づらくなってしまう。と思い、お母さんの後に続いて、私もリビングに入った。
テーブルの上に、お菓子がいっぱい並べられている。
ジュースもたくさん置かれている。
千春と千春の彼氏は、寄り添うようにソファーに座っている。
お父さんが美味しそうにビールを飲んでいる。
「咲樹お姉さん、こんばんは。どうもお邪魔しています」
千春の彼氏が私に向かって頭を下げた。
あんたにお姉さんなんて呼ばれる筋合いはないよ。私は心の中で強くつぶやいた。
「仁志くんは、本当に礼儀正しいわね」
とお母さん。
「サッカー選手として、当たり前なことです」
と千春の彼氏。
サッカー選手じゃなくても、当たり前なことでしょ。私は心の中で強くつぶやいた。
「今度の試合は勝てそうか」
お父さんが千春の彼氏に尋ねた。
「僕が活躍すれば、勝てると思います」
千春の彼氏は大きな声で答えた。
サッカーは、一人でやるものじゃないでしょ。何を偉そうに。私は心の中で強くつぶやいた。
「仁志くんもビールを飲まないか?」
お父さんが千春の彼氏に勧めた。
「僕はまだ中学生ですよ」
千春の彼氏は笑いながら断った。
「冗談に決まってるだろ」
お父さんが笑いながら言った。
「冗談でしたか。お父さんは、冗談がお上手ですね」
千春の彼氏がへらへら笑っている。
お父さんもお母さんも千春もへらへら笑っている。
四人の気色悪い笑い声がリビングに響き渡る。
とてもじゃないけど、この雰囲気には馴染めない。
本当に苦痛で苦痛で仕方がない。
この耐え難い苦痛はいつまで続くのか。
いつまで我慢しなければならないのか。
このとき、私は家を出る決意をした。
高校を卒業したら、家を出る。
ワンルームマンションで一人暮らしをするか、寮のある大学に入る。
どちらにしても、お金が必要。
両親には、なるべく頼りたくない。
アルバイトをして、お金を貯めなければならない。
部活とアルバイト。どちらを取るか、すぐには決断できない。