透き通る季節の中で
 今日は、午前のシフト。八時から十二時まで。部活は午後から。

 日曜日の午前中は、お客さんが少ない。商品の補充作業がしやすくていい。

 春子さんも出勤していて、変わりなく働いている。



 いつものように、商品の補充をしていたとき、春子さんに声を掛けられた。

 今夜、うちで一緒に食事しない?

 私は喜んで返事をした。

 夕食の時間は、六時とのこと。



 部活を終えた後、私は急いで春子さん家に向かった。

 お風呂に入らせてもらい、家から持ってきた服に着替えた。

 春子さん、日菜子ちゃん、寛太くん、私との四人でテーブルを囲み、おしゃべりを楽しみながら、夕食をご馳走になった。

 春子さんと日菜子ちゃんとで作ったという、イタリアンチーズハンバーグ。春子さん特製のエビチーズグラタン。いろんな野菜が盛り沢山の生ハム野菜サラダ。ご飯とお味噌汁。

 どのお料理もすごく美味しい。家族の温かみが感じられる。



「咲樹お姉さんとお話があるから、日菜子と寛太は子供部屋で遊んでてね」

「うん。わかった」

 日菜子ちゃんと寛太くんは子供部屋に入っていった。

 私の真向かいに座っている春子さんは、いつになく真剣な表情をしている。

 いつもは緊張しないのに、なんだか今日は妙に緊張する。
 
「前から、咲樹ちゃんに言いたかったことがあるの」

「はい、何でしょうか」

「亮太さんが亡くなってから、もうすぐ一年よね?」

「はい。亮太の命日まで、あと九日です」

「そっか。私があれこれ言うことじゃないと思うんだけどね、咲樹ちゃんには未来があると思うの」

「どういうことでしょうか」

「どこかで踏ん切りをつけて、他の人を好きになったほうがいいと思うの」

「他の人ですか……」

「うん。この世界にいない人を一生想い続ける。とても辛いことだと思うの。だから、他の人を好きになったほうがいいじゃないかなって」

 私は何も言えなかった。急な話だったし、他の人を好きになる。そんなことは考えたことすらなかったから。
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