透き通る季節の中で
「余計なお世話でごめんね」

「いえいえ、いいんです。春子さんは、どうなんですか?」

「私は、まさくんの妻だから。日菜子と寛太の母親だから」

「それは、わかりますけど……」

「咲樹ちゃんは、結婚もしていないし、子供もいないでしょ?」

「はい、そうです」

「咲樹ちゃんと私は違うのよ。咲樹ちゃんは、まだ十七歳。咲樹ちゃんの人生は、まだまだこれからなのよ」

「はい……」

「もし、天国があるとして、まさくんも亮太さんも天国で暮らしているとして、私たちのことを見守ってくれているとしたら、二人とも心配していると思うの。私たちの行く末をね」

「行く末ですか……」

「うん。私の勝手な考え方だけどね。立場が逆だったとしたらって、考えたことはある?」

「亡くなったのが私で、亮太は生きているということですか?」

「そうよ」

「考えたことはありません」

「私は考えたことがあるの。立場が逆だったとしたら、私はまさくんの幸せを願うと思うの。再婚してほしいと思うの。咲樹ちゃんに言ったことと矛盾してるけどね」

「はい……」

「亮太さんは、咲樹ちゃんの幸せを願っているんじゃないかな。誰よりも願っているんじゃないかな。私はそう思うの」

「はい……」

「コスモス以外のことで、何か不思議な出来事はあった?」

「ありません。春子はさんはあったんですか?」

「ないわよ。奇跡は一度だけ。それが全てを物語っていると思うの。奇跡はたった一度だけ」

「はい……」

「さっき言ったことは、私が決めることじゃなくて、咲樹ちゃんが決めることだからね。よく考えてみて」

「はい。よく考えてみます」



 春子さんが言ってくれたことは、わからなくもない。

 この世界にいない人を一生想い続ける。確かに辛いことだと思う。

 実際、私は辛い日々を送っている。

 泣く回数は減ってきたけど、亮太の写真を見る度に、亮太の詩を読む度に、悲しい気持ちになってしまう。

 あの日から、一年が経とうとしているのに、何も手につかなくなることがある。
 


 逢いたくても逢えない。

 話したくても話せない。

 一緒に走りたくても走れない。

 亮太の声は聞こえない。

 亮太の笑顔も見られない。

 一緒に海に行くこともできない。



 でも……
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