透き通る季節の中で
 三月五日、三年生の全生徒が体育館に集まった。

 卒業証書は、代表者のみが受け取る形式。他の生徒は名前だけ呼ばれる。
 
 大きな声で返事をする人もいれば、小さな声で返事をする人もいるし、返事をしない人もいる。

 美咲と友紀とまっちゃんは、大きな声で返事をした。私も大きな声で返事をした。

 

 教室に戻り、担任の先生から卒業証書を受け取った。

 佐藤咲樹と書かれている。

 その瞬間、いろんな思い出が蘇ってきた。

 私の高校三年間は、充実したものだったのだろうか。辛いものだったのだろうか。

 卒業とは、新たな旅立ちであり、寂しい旅立ちでもある。

 亮太と一緒に卒業したかった。

 本当に、心残り。



 私を気遣ってのことか、美咲と友紀とまっちゃんは、高校三年間、誰とも付き合わず、誰にも告白しなかった。

 誠実で優しいまっちゃんは、二人の男子から告白され、明るいキャラで人気者の友紀は、五人の男子から告白され、同級生からも下級生からもモテる美咲は、十一人もの男子から告白されというのに。

 美咲と友紀とまっちゃんの優しさは、とても嬉しいけど、なんだか申し訳なく思ってしまう。
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