透き通る季節の中で
 短大の寮の中に入るのは、これで二回目。前回は引越しの時に来た。

 初めての時は緊張したけど、今日はあまり緊張していない。

 
「こんにちは」
 寮母さんの加藤さんにお辞儀をした。

「こんにちは。いらっしゃい」
 笑顔で応えてくれた寮母さんの加藤さんは、とても優しそうなおばさん。私と同じ年頃の娘さんがいるらしい。

「今日から、お世話になります」

「もう一度、寮の規則を説明するから、そこに座ってくれるかい」

「はい」

 私は食堂の椅子に座り、加藤さんは立ったまま、寮の規則を説明してくれた。



 朝食は、六時半から七時半まで。
 昼食は、各自で用意。
 夕食は、十八時から十九時半まで。
 門限は、十一時。
 台所、洗面所、お風呂、トイレは共有。
 異性を部屋に連れ込んではいけない。
 当然のことながら、禁酒禁煙。



「それでは、部屋に行きます」

「うん。じゃあ、また後でね」

 私の部屋は、二階の二〇七号室。今朝まで暮らしていた実家の部屋と同じくらいの広さ。

 壁紙も天井も床も綺麗で、机とベッドと小さなテレビがある。窓は大きく、洗濯物を干せるベランダもある。

 一人だけの空間。自分だけの空間。私だけの空間。

 お母さんにあれこれ言われることはないし、千春の嫌味も聞かなくて済む。

 これから二年間、私はこの部屋で暮らす。

 規則さえ守れば、自由に暮らせる。

 

 私はまた新たなスタートラインに立った。
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