透き通る季節の中で
 荷物を整理した後、一階の食堂に下りて、加藤さんが作ってくれた美味しい夕食を食べていたところ、二人の寮生が私に話し掛けてきた。

 二〇八号室の里中さんと、二○二号室の角田さん。二人とも、先月の下旬に入寮したという。

 三人で自己紹介をし合い、夕食を食べながら、おしゃべりしていたところ、実家からの仕送りの話になった。

 里中さんは、月に八万円。
 角田さんは、月に七万円。
 私は、月に三万円。

 里中さんと角田さんの話によると、三万円という金額は、平均以下の金額だという。

 入学金を払ってもらったし、授業料と寮費を払ってもらうため、少ないからといって、両親に文句は言えない。それに、家族とはなるべく関わりを持ちたくない。当分の間は、高校時代に貯めた貯金で生活する。寮生活に慣れてきたら、またアルバイトを始めようと思う。

「佐藤さんは、何のサークルに入るか決めているの?」
 里中さんが私に尋ねてきた。

「陸上部に入ろうと思っているんですが」

「これから私たちが通う短大に、陸上部はないみたいよ」

「そうなんですか」

 サークルに詳しい里中さんの話によると、これから通う短大には、陸上部というものはなく、ジョギング同好会というサークルがあるらしい。

「私とみっちゃんは……あ、角田さんのことね。ダンスサークルに入る予定なんだけど、佐藤さんも一緒に入らない?」
 里中さんが私を誘ってくれた。

 寮生活をよりよいものにするためには、寮生と仲良くなる必要があると思う。それに、新しい友達が欲しい。でも、私はダンスには興味がない。

「せっかくのお誘いですが、私はやめておきます」

「そっか。じゃあ、気が変わったら、いつもでも遠慮なく言ってね」

「はい」

 里中さんと角田さんとサークルについて話していたところ、食堂が騒がしくなってきた。

 みんな、楽しそうにおしゃべりしながら、食事をしている。
 寮生たちの明るい笑い声が聞こえてくる。

 その雰囲気に馴染めず、私は席を立ち、食器をカウンターに運んで、一人で部屋に戻った。



 寮生活、初めての夜。

 実家が恋しくなったわけじゃないけど、なんだか無性に寂しさを感じる。
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