透き通る季節の中で
 十月十七日、日曜日。天気は、さわやかな秋晴れ。天気予報の最高気温は、二十三度。風は弱い予報。スタート時刻は、午前九時。

 初めてのフルマラソンの目標タイムは、三時間三十分。今の自分の走力に見合ったタイムだと思う。

 履き慣れたジョギングシューズ、この日のために購入したジョギングウェア、タオルと着替えの入ったバッグを持ち、七時前に寮を出て、スタート地点に向かった。



 見渡す限り、ランナーだらけ。

 私と同世代の女性ランナー、男性ランナー。
 二十代ランナー、三十代ランナー。
 ママさんランナー、パパさんランナー。
 中高年ランナー。
 お年寄りランナー。
 セーラー服姿、サラリーマンスタイル、有名アニメのキャラクターなどのコスプレランナー。

 老若男女問わず、多くのランナーが集まっている。
 
 沿道には、観客がいっぱい。
 




 人混みの中、スタート地点で準備体操をしていたところ、美咲と友紀とまっちゃんと、まっちゃんの彼氏さん? が私の方に向かって歩いてきた。

 美咲も友紀もまっちゃんも、いつもよりオシャレなジョギングウェアを着ている。
 流行に乗ったのだろうか、友紀はサングラスを掛けていて、ひらひらスカートを履いている。

「私の彼氏の春日大輝くんよ」
 まっちゃんが彼氏さんを紹介してくれた。

「おはようございます。どうも初めまして。今日は、応援にしに来ました」
 笑顔で挨拶してくれた春日さんは、写メで見たより優しそう。

「おはようございます。どうも初めまして。松田さんと友達の佐藤咲樹です」
 私も笑顔で挨拶を返した。

 まっちゃんと春日さんは、寄り添うように談笑している。とっても仲が良さそう。

「朝からラブラブでいいわね。目のやり場に困っちゃうわ」
 友紀が羨ましそうに言った。

「目のやり場に困ってないで、さっさと準備体操しなさいよ」
 すかさず美咲がツッコミを入れている。

「はーい! ゼッケン番号二十七番! 青山友紀! 目のやり場に困ってないで! さっさと準備体操します!」

「友紀のゼッケン番号は、二千五百八十二番でしょ?」

「そんなに突っ込まなくてもいいじゃん」
 友紀はぶつぶつ言いながらも、準備体操を始めた。

 美咲とまっちゃんは、既に準備体操を始めている。

 私はもう一度、入念に準備体操。

 四十二・一九五キロの長丁場。しっかりと体をほぐしておく必要がある。



 美咲の目標タイムは、三時間。

 友紀の目標タイムは、三時間。

 まっちゃんの目標タイムは、三時間。

 スタート前から、火花を散らせている。

 春日さんは、沿道からの応援。私たちの荷物の運搬係。





 スタート時刻が刻々と迫ってくる。

 美咲と友紀は、あまり緊張していない様子。

 まっちゃんは、やや緊張している様子。

 私は、かなり緊張している。

「沙織! 頑張れ!」
 沿道から、春日さんの声援が飛んでくる。

 まっちゃんは、笑顔で手を振って応えている。

「本当にラブラブでいいわね。耳のやり場に困っちゃうわ」
 友紀が羨ましそうに言った。

 美咲は友紀を無視。まっちゃんも友紀を無視。私も友紀を無視。

 みんなに無視された友紀は、ぶつぶつ独り言を言いながら、寂しそうにしている。

 可哀想に思うけど、今は友紀に構っている暇はない。

「ふっ」
 立ち直ったのだろうか、友紀が不敵な笑みを浮かべている。
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