透き通る季節の中で
 吸水所では必ず水分補給をして、頑張って走り続けたものの、二十五キロ地点を過ぎたところで、美咲とまっちゃんについていけなくなった。

 二人はペースを上げていく。どんどん加速させていく。

 残念だけど、美咲とまっちゃんにはついていけない。

 ここからは、自分と同じようなペースで走っている人の後をついていく。
 


 三十五キロ地点を過ぎたところで、友紀の後ろ姿が見えてきた。

 確かに友紀。走り方とスカートの色でわかる。

 初めて友紀に勝てるチャンス。

 私は走るペースを上げた。

 並ぶ間もなく、一気に友紀を抜き去る。






 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 咲樹だけには絶対に負けないぞ!

 私に気づいたのか、友紀が雄叫びを上げた。



 火事場のくそ力なのか、友紀は私をあっさり抜き去り、雄叫びを上げながら、ゴールに向かって突き進んでいく。

 尋常な速さじゃない。とにかくもの凄い速さ。

 私はあっという間に引き離されてしまった。



 友紀に勝てなくても、最後まで全力で走り切る。

 最後の力を振り絞り、全力で走り切る。

 ゴールに向かって、ラストスパート。





「咲樹! もう少しだよ!」
 沿道から、美咲の声援が聞こえてくる。

「咲樹! ファイト!」
 まっちゃんの声援も聞こえてくる。

「佐藤さん! 頑張れ!」
 春日さんの声援も聞こえてくる。

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 友紀は雄叫びを上げながら、沿道をもの凄い速さで走っている。



 みんなの声援に後押しされ、私はゴールに向かって全力で走り続けた。



 はあはあ、はあはあ。はあはあ、はあはあ。はあはあ、はあはあ。はあはあ、はあはあ。

 私は倒れ込むようにゴールして、地面に仰向けになった。



 青空が見える。

 真っ白い雲も見える。

 秋の優しい日差しが心地よい。
 


 なんともいえない爽快感と達成感。

 フルマラソンを完走した人にしかわからない喜び。







 美咲の完走タイムは、二時間四十九分。

 まっちゃんの完走タイムは、二時間五十七分。

 友紀の完走タイムは、二時間五十九分。スタート直後から飛ばしたというのに、恐るべし友紀の底力。

 私の完走タイムは、三時間二十三分。目標タイムを七分も上回ることができた。

 美咲とまっちゃんと友紀には勝つことができなかったけど、自分では満足のタイム。



「こんにちは。私の初マラソンの完走タイムは、三時間二十三分でした」

 空に向かって報告した。



 彼も、私に声援を送ってくれたのだろうか。



「咲樹、そろそろ行くわよ」

「うん」



 透き通る空気がとても気持ち良い。
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