透き通る季節の中で
 土曜日の夕方、五時半に家を出た。

 外はしとしとと雨が降っている。梅雨の真っ只中。じめじめとした蒸し暑さ。スーツでは、さすがに暑い。

 電車に乗って、待ち合わせ場所に行ったところ、友紀と椎名さんと思われる女性が立っていた。

「こちらの女性が、幹事の椎名さんね」
 さっそく友紀が紹介してくれた。

「こんばんは。どうも初めまして」
 笑顔で挨拶してくれた椎名さんの服装は、上が白のカットソー。下がデニムのショートパンツ。

 ものすごい笑顔の友紀もラフな服装。

 私だけスーツ姿。ラフな服装で来ればよかったと思った。

「こんばんは。どうも初めまして。友紀の高校時代の同級生の、佐藤咲樹です」
 私はハンカチで汗を拭きながら挨拶をした。

「咲樹さんのことは、友紀からよく伺っております。今夜は、思いっきり楽しんでくださいね」

 椎名さんが私に気を遣ってくれているのはわかるけど、別に楽しみたくはない。早く帰れればいいと思う。





 椎名さんと友紀の後に続いて、居酒屋に入った。

 落ち着いた雰囲気の個室席。

 男性陣は、まだ来ていない。

 椎名さんは奥の席。友紀は真ん中の席。私は通路側の席に座った。

 好きなときに帰れるように、友紀が気を遣ってくれた模様。

 椎名さんと友紀は、リラックスした様子で雑談している。

 いったいどんな人が来るのだろう。私はガチガチに緊張。

 冷房が効いているのに、額から汗が出てくる。スーツを脱ぐ余裕もない。
< 173 / 268 >

この作品をシェア

pagetop