透き通る季節の中で
 いつの間に注文したのだろうか。店員さんが、生ビールを運んできた。

「それでは、私が乾杯の音頭を取ります」
 椎名さんはそう言うと、生ビールの入ったジョッキを掴んだ。

 友紀も男性陣もジョッキを掴んでいる。

 私は慌ててジョッキを掴んだ。
 
「今宵、この六人が集まったのは、何かの縁だと思います。この瞬間を大切にして、思いっきり楽しみましょう。それでは乾杯!」

「乾杯!」

 みんながジョッキを高く上げたので、私もジョッキを高く上げてみた。

「長谷川さんと峰岸さんは、フットサルをやっているんですよね?」
 さっそく友紀が質問している。

「小さなチームですけどね」
 長谷川さんが笑顔で答えた。

「僕と長谷川は、同じチームなんです」
 峰岸さんが笑顔で説明している。

「そうなんですか。私はサッカーはあまり詳しくないんですが、フットサルというのは、お猿さんの着ぐるみを着て、キーキー。キャーキャー。ウキョキョキョキョーと言いながら、サッカーをするんですか?」

「そんなわけないじゃないですか。友紀さんは、面白い人ですね」
 と言った長谷川さんが笑っている。

 峰岸さんも笑っている。

 椎名さんも笑っている。

 友紀も笑っている。

 面白くなかったのだろうか、安藤さんだけ笑っていない。

「パティシエールとは、フランス語で、女性のお菓子職人のことですよね」
 長谷川さんが明るい声で言った。

「よくご存知ですね。すごく嬉しいので、一気飲みしちゃいます」
 友紀はそう言うと、生ビールを一気に飲み干した。

「店員さーん!」
 大きな声で店員さんを呼んで、生ビールを注文している。



 正直に言って、友紀のノリにはついていけない。

 私は友紀のように明るく振る舞うこともできない。

 目の前に居る男性たちと何を話していいのかわからない。

 できるだけ早く帰りたい。でも、どのタイミングで帰ったらいいのかわからない。
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