透き通る季節の中で
「それでね、ゴキブリ入りのケーキを買ったお客さんがいてさ、そのお客さんが、すごく美味しかったわよ。またゴキブリケーキを作ってね。って言ってくれたのよ」

「その話、本当なんですか?」

「冗談に決まってるじゃないですか。ゴキブリケーキなんか販売したら、店が潰れちゃいますよ」

「悪い冗談はやめてくださいよ」

「あはははは!」

 安藤さんと私が静かに話している傍らで、友紀たちは盛り上がりを見せている。

「みんなまだまだ盛り上がっていますね」

「そうですね。友紀は合コン慣れしているので、場を盛り上げることが得意なんだと思います」

「そうなんですか。盛り上がっている最中に悪いんですが、僕はそろそろ帰ります」

「あ、じゃあ、私も帰ります」

 安藤さんが立ち上がったので、私も立ち上がった。

「僕は先に帰るから」
 長谷川さんと峰岸さんに声を掛けた安藤さんは、五千円札をテーブルに置いて、個室から出ていった。

 そんなに飲み食いしていないのに、五千円も払うなんて、ずいぶん気前のいい人だと思った。

「私も帰るね」
 酔っている様子の友紀に声を掛けて、私もテーブルに五千円札を置いて個室から出た。
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