透き通る季節の中で
 外に出たところ、入り口の前に、安藤さんが立っていた。

「止みそうもありませんね」

「そうですね」

 外はまだ雨が降っている。

「お礼を言うのを忘れていました」

「あ、私もです」

「今夜はすごく楽しかったです。どうもありがとうございました」

「私も楽しかったです。どうもありがとうございました」

 安藤さんと私は頭を下げあった。

「それでは、さようなら」

 私が声を掛ける間もなく、安藤さんは駅に向かって走っていった。

 雨の中を走っていく。

 その後ろ姿はどんどん小さくなっていく。



 無数の雨を降らせている空を見上げてから、傘を差して駅に向かった。

 街中はまだまだ暑い。人通りも車通りも多い。

 もうすぐ七月。

 暑い夏が過ぎれば、涼しい秋。



 あと四ヶ月足らずで、今年も透き通る季節がやって来る。
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