透き通る季節の中で
 八月六日、日曜日。

 今日は、生まれて初めてオートバイに乗る。後ろの席だけど。

 服装は、安藤さんに言われたとおり、上が長袖のシャツ。下がジーンズ。靴はハイカットスニーカー。メールに書かれていなかったので、靴は自分で選択。

 念のためにパーカー、ハンカチ、タオル、メイク道具、手鏡、クシ、お財布、スマホの入ったリュックサックを背負って家を出た。

 外は真夏の日差しが照りつけている。

 靴底から、アスファルトの熱が伝わってくる。

 体感温度では、三十度くらい。

 まだ八時半過ぎ。

 これからさらに気温は上がると思う。






 

 待ち合わせ場所の駅の階段を下りたところで、安藤さんの姿が視界に入った。

「こんにちは」
 笑顔で挨拶してくれた安藤さんは、ライダースーツを着ている。

 右手に白のヘルメット。左手に赤のヘルメット。どっちがヘルメットが、私のヘルメットなのだろう。

「こんにちは」
 私は遠目から挨拶をして、安藤さんの元に駆け寄った。

 ロータリーに、写真で見たのと同じオートバイが止まっている。

「あのオートバイが、安藤さんのオートバイなんですか?」
 さっそく安藤さんに聞いてみた。

「そうですよ。さっき、洗車してきました」
 安藤さんは、恥ずかしそうに微笑んだ。

「ピカピカですね。オートバイに乗るのは初めてですので、乗り方を教えてもらえますか」

「はい。もちろん教えます」

 安藤さんが、後部座席の乗り方を教えてくれた。



 足はリアステップに乗せる。

 発進時、停車時は、太ももに力を入れて踏ん張る。

 走行中は、運転手の体を掴む。

 カーブを曲がるときは、体重移動をする。

 走行中に、後ろを向いてはいけない。

 ヘルメットのアゴ紐はしっかり掛ける。



「それでは、ヘルメットを被りましょうか」

「はい」

 安藤さんが、私に赤色のヘルメットを手渡してくれた。

 ヘルメット越しの会話も初めて。

 アゴ紐の掛け方がわからず、安藤さんに掛けてもらった。
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