透き通る季節の中で
 日曜日の朝、新地がお見舞いに来てくれた。

 みかん、梨、ぶどう、りんご。果物をたくさん持って。

 さっそく梨を剥いて、新地と一緒に食べた。



 窓の外は、さわやかな秋晴れが広がっている。

 絶好の行楽日和。



「どこかに行ってきたら?」

「今日は、やめておくよ。あとでDVDを借りてくるね」

「天気が良いのに、部屋にいたら、もったいないよ」

「じゃあ、箱根にでも行ってみようかな」

「うん。行っておいで」

 新地は立ち上がり、ヘルメットを持った。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 玄関で新地を見送った。



 言葉では表現しにくい、甲高いエンジン音が外から聞こえてくる。

 新地のオートバイの音。

 姿が見えなくても、音だけでわかる。







 夕方、新地から電話が掛かってきた。

「今、どこにいるの?」

「代官山のお土産屋にいるよ。体の具合はどう?」

「だいぶいいよ。箱根の紅葉はどう?」

「けっこう色づいてるよ。写メを撮ったから、あとで送るね」

「うん。落ち葉、拾った?」

「拾ったよ。帰ったら、見せるね」

「うん。楽しみに待ってるね。帰りは何時くらいになりそう?」

「急に霧が出てきて、視界が悪いんだ。ゆっくり走って帰るから、八時くらいになるかな」

「わかった。八時だね。料理を作ろうと思うんだけど、何がいいかな?」

「オムライスは出来る?」

「出来るよ」

「じゃあ、オムライス」

「オムライスだね。お風呂も沸かしておくからね」

「うん。ありがとう。じゃあ、また後でね」

「気をつけて帰ってきてね」

「うん。安全運転で帰るよ」

 新地の帰りは、八時頃。

 落ち葉のお土産を持ってきてくれる。

 口笛を吹きながら、お風呂を沸かして、オムライスを作り、新地の帰りを待った。
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