透き通る季節の中で
 九時を過ぎても帰ってこない。

 まだ走っているのだろうか、電話しても出ない。

 十時

 十一時

 零時

 連絡が取れないまま、日付が変わってしまった。

 何かあったのか。

 いくらなんでも遅すぎる。



 一時を回ったところで、やっと電話が掛かってきた。

 新地の番号ではない。

 こんな遅くに誰だろう。

 不安に思いながら、電話に出てみた。

 




「もしもし、佐藤です」

 いたずら電話なのだろうか、応答はない。

「もしもし、どなたでしょうか」
 少し強い口調で言ってみた。

「夜分にすみません」
 やっと応答があった。聞き覚えのある声。

「あの、僕は、安藤新地の友人の長谷川と申します。以前、合コンでお会いしたのを覚えていらっしゃいますか?」

「あ、はい。覚えています。私の友達の青山友紀と、お話されていた方ですよね」

「はい。そうです。それで、今日は、どうしても、佐藤さんにお伝えしなければならないことがありまして、お電話をさせていただきました」

「はい」

「あの、佐藤さんには……とても言いにくいことなんですが……」

「はい」

「あの、安藤は……交通事故に巻き込まれまして……」

「はい」

「警察の話だと、六時半頃らしいです。山道を走行中、センターラインをはみ出してきた対向車と正面衝突してしまったとのことです」

「はい」

「それで、あの、安藤は……」

「はい」

「安藤は、帰らぬ人となってしまいました」

「新地は帰ってきますよ」

「いや、その、あの、安藤は……亡くなってしまったのです」

「新地は帰ってきますよ」

「佐藤さん、どうか落ち着いて聞いてください。信じられない気持ちは僕も同じです」

「はい」

「安藤は、死んでしまったのです。もうこの世にいないのです」

「はい」

「お通夜とお葬式の日時が決まりましたら、またご連絡させていただきます」

「はい」

「本当に、何て言ったらいいのか。安藤が、死んでしまうなんて」

「…………」



 もう……ダメだ……



 もしもし! もしもし! もしもし! 佐藤さん! 大丈夫ですか! もしもし! もしもし! もしもし!
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