透き通る季節の中で
 夕方、友紀がタクシーで迎えに来てくれた。

 礼服に着替えて、タクシーに乗り込み、斎場に向かった。

 椎名さん、長谷川さん、峰岸さん。友人をはじめとして、多くの人が参列している。

 お焼香をして、祭壇に飾られている新地の遺影に手を合わせた。

 人が減るまで、控え室で待った。

 新地のご両親に挨拶をした。

 お父様もお母様も、初対面の私に、ありがとう。と言ってくれた。

 その瞬間、一気に涙が溢れてきた。

 家から持ってきたハンカチが、すべて濡れてしまった。

 友紀がハンカチを手渡してくれた。







 お葬式にも参列した。

 棺に入っている新地の顔は、不運な交通事故で亡くなったとは思えないほど、安らかな表情。

 生きているかのような、安らかな表情。

 感情を押し殺し、ぐっと涙を堪えて、新地の顔をじっと見つめていたところ、新地のお母様が、私に優しく声を掛けてくれた。

 今朝、見つけたのよ。と言って、新地が生前に書き残したという、手紙を私に手渡してくれた。

 新地は火葬され、骨と灰になった。

 その瞬間、私は新地の死を完全に受け入れた。

 受け入れた。というより、受け入れるしかなかった。

 新地も天国に行くのだろうか。天国で、彼女と再会するのだろうか。

 そう思いながら、新地のお母様に、新地が入るお墓の場所を聞いた。







 家に帰り、さっそく手紙を読んだ。

 



 咲樹へ

 僕はバイクが好きだから、いつ事故を起こすかわからない。

 人は、いつ死ぬかわからない。

 その時のために、この手紙を残しておく。

 もし、僕が亡くなったら、僕のことは忘れてほしい。

 記憶から消し去ってほしい。

 どうか、前を向いて生きてくれ。

 どんなに辛くても、どんなに悲しくても、前を向いて生きてくれ。

 僕のお願いだ。

 心からのお願いだ。

 咲樹を愛しているからこそのお願いだ。

 この手紙が、咲樹の元に届くことを願って。

 安藤新地





 新地が手紙を残した理由は、私にはわかる。





 受け取ったよ。確かに受け取ったよ。新地のお母様が、私に手渡してくれたよ。

 読んだよ。読んだからね。何度も何度も読み返すからね。

 新地の気持ちは伝わったよ。
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