透き通る季節の中で
 道の駅のレストランで昼食を済ませて、オートバイの元に戻った。
 
 新地のヘルメットを後部座席に乗せていたところ、三人の若い男性が私の元に近寄ってきた。

「こんにちは。そのバイクは、あなたのバイクなんですか?」

「黒のライダースーツが似合ってますね」

「よかったら、僕たちと一緒に食事しませんか?」

 ナンパなのだろうか、三人の若い男性が私を誘ってきた。

「昼食は食べましたので、結構です」

 きっぱりと断ったのに、しつこく誘ってくる。

 馴れ馴れしく、私の体を触ってくる。

 気持ち悪くてたまらない。

 恐怖のあまり、体を動かすことができない。

 





「ちょいと、兄さんたち」

 さっきのテンガロンハット姿の女性が、私を取り囲んでいる三人の男性の肩を、ポンポンポンと順番に叩いた。

 三人の男性は、一斉に後ろに振り返った。

「あの人、嫌がってるだろ」
 さっきの歌声とは間逆の重く低い声。テンガロンハットのつばで顔は見えない。

「あんたには関係ないだろ」

「余計な口出し、しないでくれよ」

「そうだそうだ」

「関係なくねーんだよ。その女性はな、あたしの歌に百円も払ってくれたんだよ」

「そんなの知るかよ」

 三人の男性とテンガロンハット姿の女性は、小競り合いを始めた。

 すごく怖くて、私は何もできない。
 
「てめーら! 道の駅でナンパなんかしてんじゃねーよ! 女を舐めんじゃねーぞ!」
 テンガロンハット姿の女性がもの凄い剣幕で怒鳴った。

 周りにいる人たちが、私たちのことを見ている。

 その迫力に圧倒されたのか、私をナンパした三人の男性は、慌てた様子で車に乗り込み、急発進で駐車場から出て行った。

 私はホッと胸を撫で下ろした。
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