透き通る季節の中で
 奥日光、滞在二日目は、オートバイには乗らず、姉さんとちゃとらんと一緒に歩いて紅葉を見に行った。

 もちろん、新地のヘルメットを持って。


 
 透き通る空気を吸い込みながら、見晴らしの良い山道を歩いて、静かな森の中に入った。

 至る所に落ち葉が落ちている。拾いたい放題。

 新地のヘルメットを落ち葉の絨毯の上に置いて、さっそく落ち葉拾いを始めた。

 姉さんも落ち葉を拾ってくれている。

 ちゃとらんは落ち葉を口に咥えて、私の元に運んできてくれる。



「その落ち葉、どうするの?」

「新地にプレゼントするんです」

「そっか。それじゃあ、もっといっぱい拾っちゃおう」

 姉さんもちゃとらんも、どんどん落ち葉を拾ってくれる。

 あっという間に、落ち葉の小山ができた。



「その落ち葉で焼き芋を焼こうか」
 姉さんはそう言うと、服の中からサツマイモを取り出した。

 太くて大きなサツマイモ。

 いつどこで入手したのだろうか。

 道の駅で買ったのだろうか。

 本当に落ち葉で焼き芋を焼こうとしているのだろうか。

 姉さんは、不適な笑みを浮かべている。

「せっかく拾い集めたので、やめてください」
 私は慌てて落ち葉の小山の前に立ち塞がった。

「冗談よ。あはははは!」
 姉さんは大声で笑っている。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃー」
 ちゃとらんは笑っているかのように鳴いている。

 真に受けてしまった自分が可笑しくなって、私も大きな声で笑った。

 姉さんとちゃとらんと私の笑い声が静かな森にこだまする。

 新地も笑っていると思う。






 二日目の夜も、三人で一緒に食事をした。

 姉さんは豪快に日本酒を飲みまくっていて、ちゃとらんは魚料理を食べまくっている。

 全く遠慮しないところがすごいと思うし、なんだかいいなって思う。
 


「歌でも歌おうか」

 ご機嫌な姉さんが、自分で作詞作曲したという歌を歌い始めた。

 何を言っているのかわからないけど、ちゃとらんも楽しそうに歌っている。

 まるで宴会のような、どんちゃん騒ぎ。
 
 ここまで猫と仲良くなれるなんて。

 姉さんとちゃとらんは、本当に良いコンビだと思う。



 旅をしたから、姉さんと出会えた。ちゃとらんとも出会えた。

 楽しいひと時を過ごさせてもらっている。

 姉さんとちゃとらんは、旅の楽しさを十二分に知っているのだと思う。

 私もいつか、歩いて旅をしてみようと思う。

 出来ることなら、ちゃとらんのような猫と一緒に。

 今夜は久しぶりにぐっすり眠れそう。
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