透き通る季節の中で
「佐藤さんは、何か夢や目標があるの? 例えば、オリンピックに出場してみたいとかさ」
 中村さんが笑顔で私に尋ねてきた。
「何もありません。ただひたすら走り続けるということが、今の自分に向いていると思ったので、なんとなく長距離部に入ってみただけです」
「そっか。あたしもオリンピックに出場してみたいとか、一流ランナーになりたいとか、大きな夢や目標があるわけじゃないんだけどね、とにかく走ることが好きなんだ」
「そうなんですか」
「敬語じゃなくてもいいのに。もっと気楽に話しましょうよ」
「はい。なるべく敬語は使わないようにします」
「うん。できれば、なるべくじゃないほうがいいんだけどね」
 とても明るくて元気な様子の中村さんは、私が無愛想な受け答え方をしても、どんどん話し掛けてきてくれる。
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